ネット誹謗中傷の相談件数統計と発信者情報開示制度【2026年版・一次情報リファレンス】
ネット上の誹謗中傷は、いま「どのくらい相談が寄せられ」「どんな制度で対処できる」のでしょうか。本記事は、総務省・法務省が公表する一次統計をもとに、相談件数の推移と発信者情報開示制度(情報流通プラットフォーム対処法・発信者情報開示命令)を、出典リンク付きで整理したリファレンスです。すべての数値・制度年は政府(.go.jp)の一次資料で確認しています。
違法・有害情報相談センターの相談件数【推移】
総務省が運営を委託する「違法・有害情報相談センター」の相談件数は、令和6年度(2024年度)で6,403件でした。同センターの報告書は「前年度から引き続き6,000件を超え、依然として高止まり傾向が続いている」としています。年度別の推移は次のとおりです。
| 年度 | 相談件数 |
|---|---|
| 平成22年度(2010) | 1,337件 |
| 平成24年度(2012) | 2,386件 |
| 平成27年度(2015) | 5,200件 |
| 平成29年度(2017) | 5,598件 |
| 令和元年度(2019) | 5,198件 |
| 令和2年度(2020) | 5,407件 |
| 令和3年度(2021) | 6,329件 |
| 令和4年度(2022) | 5,745件 |
| 令和5年度(2023) | 6,463件 |
| 令和6年度(2024) | 6,403件 |
出典:総務省「令和6年度 インターネット上の違法・有害情報対応 相談業務等の請負 報告書(概要版)」(PDF)。全年度の推移(平成22年度〜令和6年度)は同資料の図表1に記載。
統計から読み取れる傾向
相談件数は平成27年度(2015年度)に5,000件台へ到達し、その後は6,000件前後で高止まりしています。直近3年(令和4〜6年度)はいずれも5,700〜6,500件の水準で、ピークは令和5年度(2023年度)の6,463件でした。誹謗中傷を含むネット上の権利侵害相談が、一時的な急増ではなく恒常的に高い水準で推移していることがわかります。
法務省「人権侵犯事件」に見るインターネット上の人権侵害
もう一つの一次統計が、法務省の人権擁護機関がまとめる「人権侵犯事件」です。令和7年(2025年)に新規救済手続を開始した人権侵犯事件は8,207件で、このうちインターネット上の人権侵害情報に関する事件は1,569件でした。法務省はこの件数について「依然として高水準である」としています。
インターネット上の人権侵害情報に関する事件数は、近年おおむね1,500〜1,800件台で高水準に推移しています(各年の確定値は法務省の統計資料一覧で公表)。
出典:法務省「令和7年における『人権侵犯事件』の状況について(概要)」(法務省/PDF)、法務省「人権侵犯事件 統計表」一覧(法務省)。
発信者情報開示制度の全体像
誹謗中傷の投稿者を特定し、損害賠償請求や刑事告訴などにつなげる法的手段が発信者情報開示です。制度の根拠法は、従来の「プロバイダ責任制限法」から「情報流通プラットフォーム対処法」へと発展してきました。近年の主な制度改正は次の2つです。
| 制度改正 | 時期 | 要点 |
|---|---|---|
| 発信者情報開示命令(非訟手続)の創設 | 令和4年(2022年)10月1日 施行 | 裁判所の一つの手続きで開示を進められる新制度 |
| 情報流通プラットフォーム対処法への改称・大規模事業者への義務付け | 令和6年(2024年)5月 改正成立/令和7年(2025年)4月1日 施行 | 大規模事業者に迅速化・透明化を義務化 |
発信者情報開示命令(非訟手続)とは【2022年10月施行】
令和3年(2021年)改正のプロバイダ責任制限法(公布日:令和3年4月28日)により、令和4年(2022年)10月1日から「発信者情報開示命令」という新たな裁判手続(非訟手続)が施行されました。非訟手続とは、訴訟手続に比べて手続が簡易で、事件の迅速な処理が可能とされる裁判手続です。
従来は、コンテンツプロバイダ(SNS事業者・掲示板管理者等)とアクセスプロバイダ(通信事業者等)に対して、仮処分+訴訟という2段階の裁判手続を別々に行う必要がありました。この制度では、裁判所による3つの命令により、これらを一体的に(併合して)審理できます。
- 開示命令:発信者情報の開示を命じる中核的な命令
- 提供命令(法第15条):他の開示関係役務提供者(主に経由プロバイダ)の名称等・保有情報の提供を命じ、2段階目の相手方を特定できるようにする命令
- 消去禁止命令:手続中に発信者情報(IPアドレス・タイムスタンプ等)が消去されないよう保全する命令
これにより、コンテンツプロバイダとの手続中に通信ログが消去されるおそれや、同じ要件の審理を二度行う必要があるといった従来の課題への対応が図られました。
出典:総務省「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要)(令和4年10月1日施行)」(PDF)、総務省「裁判所による3つの命令の創設」(PDF)、総務省 特設ページ(情報流通プラットフォーム対処法)。
情報流通プラットフォーム対処法への改称【2024年改正・2025年施行】
令和6年(2024年)5月、プロバイダ責任制限法の一部改正法が成立し、法律の題名が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(略称:情報流通プラットフォーム対処法)へと改められました。この改正では、大規模なプラットフォーム事業者(大規模特定電気通信役務提供者)に対し、原則として次の措置が義務付けられました。
- 侵害情報の送信防止措置(削除等)の迅速化に関する措置
- 削除等の運用状況の透明化に関する措置
この改正法は令和7年(2025年)4月1日に施行されました。あわせて総務省は、削除対象となりうる違法情報を例示する「違法情報ガイドライン」等を整備しています。なお、どの事業者が「大規模特定電気通信役務提供者」に該当するかは、総務省が個別に指定します。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」情報流通プラットフォーム対処法の施行(総務省)、総務省 特設ページ(情報流通プラットフォーム対処法)。
制度を実際に使うときの流れ(関連記事)
統計と制度の全体像をつかんだら、次は具体的な手続きです。当サイトの関連記事もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ネット誹謗中傷の相談は年間どのくらいありますか。
A. 総務省委託の違法・有害情報相談センターに寄せられた相談は、令和6年度(2024年度)で6,403件でした。近年は6,000件前後で高止まりしています(出典:総務省報告書)。
Q2. 発信者情報開示命令はいつからの制度ですか。
A. 令和4年(2022年)10月1日に施行された、比較的新しい非訟手続です。裁判所の一つの手続きの中で、開示命令・提供命令・消去禁止命令の3つを組み合わせて特定を進められます。
Q3. 「情報流通プラットフォーム対処法」とプロバイダ責任制限法は別の法律ですか。
A. 別の法律ではなく、プロバイダ責任制限法が令和6年(2024年)改正で題名変更されたものです。この改正法は令和7年(2025年)4月1日に施行され、大規模事業者への義務が加わりました。
Q4. 制度を使えば必ず投稿者を特定できますか。
A. 通信ログの保存状況や海外事業者の対応などにより、特定できない場合もあります。制度の利用可否や見通しは、事案ごとに弁護士等の専門家へご確認ください。
出典一覧(一次情報)
- 総務省「令和6年度 インターネット上の違法・有害情報対応 相談業務等の請負 報告書(概要版)」https://www.soumu.go.jp/main_content/001009571.pdf
- 法務省「令和7年における『人権侵犯事件』の状況について(概要)」https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03_00272.html
- 法務省「人権侵犯事件 統計表」一覧 https://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_jinken.html
- 総務省「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要)(令和4年10月1日施行)」https://www.soumu.go.jp/main_content/000836903.pdf
- 総務省「裁判所による3つの命令の創設」https://www.soumu.go.jp/main_content/000836891.pdf
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」情報流通プラットフォーム対処法の施行 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd123210.html
- 総務省 特設ページ「情報流通プラットフォーム対処法」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html
免責事項
本記事は公的機関が公表する統計・制度情報を一般向けに整理したもので、特定の事案に対する法的助言ではありません。統計値・制度内容は将来の更新や法改正により変わる場合があります。掲載の数値・制度は本記事作成時点の一次資料に基づくものであり、削除や開示、特定の成功を保証するものではありません。個別のご相談は、総務省委託の違法・有害情報相談センター(https://www.ihaho.jp/)や弁護士等の専門家にご確認ください。
この記事の監修弁護士
松本 理平 弁護士(第一東京弁護士会・登録番号55199)/青山北町法律事務所
監修範囲:本記事中の法律に関する記述。個別の事案の見通しを示すものではありません。
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